高知県医療ICT連絡協議会

2018年11月2日

背景と目的

 ICT協議会は、来るべき南海トラフ地震での医療機関の情報損失・滅失を防ぐために、医療情報の県外保全を目的として、高知県が呼びかけた13病院によって平成26年1月に結成された。
 各医療及び介護機関の情報処理担当者が県外保全の仕組みを検討するなかで、南海トラフ地震に対するBCP対策としては発災直後の取組みの不十分さに気づき、発災直後(DMATの支援や避難所等の開設)から慢性期(各医療機関の情報システム復旧後)を通して診療情報を活用できる新たな仕組み作りの必要性を認識した。
 新たな仕組み作りには、平時から医療及び介護機機関で医療及び介護情報の共有、利活用ができていることが前提となることから、平時の医療及び介護機関連携を行うための新たな組織づくりについて、その推進役を高知県医師会にお願いするとともに、組織づくりの支援を高知県に依頼した。この時点で高知県医師会が構成団体に参加し、県医師会長がICT協議会の会長に就任した。また、幡多圏域の1病院が保全事業に参加し、ICT協議会は1団体14病院で構成されることとなった。
 一方、医療を取り巻く環境は、経済成長の鈍化と人口動態の変化、急速な少子高齢化の進展による疾病の顕著な量的・質的変化等の影響で、病院完結型医療から地域完結型医療に移行せざるを得ない状況に置かれており、医療費をはじめとする社会保障費の急増が見込まれる中で、ミニマムな医療の提供システム(地域包括システム)の構築が必要となってきている。
 団塊の世代が後期高齢者となる2025年を契機として、一人の若者が1人の高齢者を支えるという厳しい社会(「肩車型」社会)の訪れが現実化する中で、限りある人的資源、財源を最適配分し、少子高齢化の環境下でも医療制度を持続可能なものにするためには、高齢者に対しては地域医療を主体としながら適時必要となる病院医療と連携するシステムが必要であり、疾病の治療から疾病予防へと向かうことが必要である。
 このような観点に共通して最も有効かつ有用な方策は、病診・病病連携のみならず医療介護連携へのICT技術の活用であり、国は平成26年6月の医療介護総合確保推進法を制定し、積極的にICTを活用した地域医療介護連携ネットワークの構築を支援してきており、平成28年9月には地域医療介護連携ネットワークを成功させるための5つの機能(双方向性、クラウド環境、医介データ統合、多職種連携のためのSNS機能、自動情報収集機能)とそれを保証するための標準仕様を策定、公表した。
 このことから、ICT協議会は、参加施設が双方向で患者情報を共有し、高知県において地域完結型医療の実践向上、医療の質的向上、医療介護連携の推進に寄与することを目的として、本システムを構築することとした。

高知県地域医療介護連携ネットワークシステムの基本方針

  1. 地域連携から地域統合へ
    基幹病院主体のネットワークの集合ではなく、すべての施設、すべての職種が主体となって患者を支えるネットワーク連携の実現=地域統合へ
  2. 標準化されたシステムの導入
    電子カルテ連携を前提としない双方向性の機能を持たせた標準化されたシステムの導入
  3. データを分散させず一元管理
    医療・介護・画像情報が高知県としてひとつのデータベースの中で統合管理できるEHRを構築
  4. 既存のネットワークの活用
    「はたまるねっと」や「しまんとネット」等既存の4つのネットワークも活用し、有機的な連携で全県を網羅
  5. 拡張性のあるネットワーク
    隣県ネットワークとの接続や地域連携パス、遠隔画像診断等、地域や機能に拡張性のあるネットワーク
  6. 南海トラフ地震等有事への対応
    南海トラフ地震等によるデータの滅失・減失を防ぐとともに、発災直後から平時まであらゆるフェーズで活用できる高度化されたEHRをはたまるねっとと共に実現

システム導入の基本的な考え方

本システムは、標準的な形式でデータを集約するクラウド型の統合データベースであり、ネットワークに参加する医療施設や介護事業所等で利用している情報システム(電子カルテシステムやオーダリングシステム、医事会計・レセプトシステム、調剤システム、画像情報システム等)と接続し、これらの施設から送られるデータを蓄積する仕組みである。これにより、ネットワーク参加施設はお互いに自院以外の参加施設における診療情報を参照することを可能とし、医療介護情報連携の緊密化を図る。また、クラウドのデータセンターを県外(津波浸水区域以外の安全な場所)に保存することで、南海トラフ地震など非常時の情報参照源として将来活用することも可能とするものである。

システム総コスト(ライフサイクルコスト)を縮減するシステム方式の採用

システムの開発には一般的に多額の費用がかかるため、他地域で稼働実績のあるパッケージを導入し、可能な限り既存の情報システム資産の有効活用を図り、導入コストを抑えること。さらにクラウドを活用することで運用・保守コストの抑制と合わせたシステム総コスト(ライフサイクルコスト)の縮減について提案すること。

期待される効果

  1. 情報提供の効果
    ・カルテ情報等の公開により、CD作成など、転退院の事務的負担が軽減する。
    ・転院時に、治療内容を紹介先の先生に見てもらえることを説明すると患者さんに安心してもらえる。
    ・電子カルテを導入している施設では、診療情報を公開する前提でカルテを記載することになるため、医療の質・カルテの質向上が期待できる。
    ・非電子カルテ施設からもレセコン・調剤・検査システム等から情報収集を行うので、情報密度が飛躍的に向上する。
    ・本システムを通じて医療施設間、介護事業所間等のコミュニケーションが密になり、より地域医療介護連携が促進され、地域完結型のチーム医療・介護の実践に拍車がかかる。
  2. 情報共有の効果
    ・専門医と患者情報を共有することで、より良い体制で患者対応を行うことができる。
    ・他の医療施設での治療内容を患者さんや家族に見せながら症状や今後の治療方針を説明可能。
    ・他院に紹介した患者さんの経過を、好きな時間に確認することができる。
    ・紹介状のやり取りではわかりづらい患者さんの背景情報も把握できるのでリハーサル準備がしやすくなる。
    ・病院で撮影された画像と自院で撮影した画像を比較しながら診療を行うことが可能。
    ・他の医療機関でどのような薬や抗生剤を使用しているか知ることができ、不適切な使用の防止につながる。
    ・患者情報の収集が容易になり、他施設への問い合わせ等の回数が少なくなるので、業務軽減につながる。
    ・本システムを通じて、医療機関間、多職種間のコミュニケーションが密になり、地域医療介護連携が促進され、医療から介護までの一貫した一体的連続的なケアが可能となる。
  3. 患者さんへの効果
    ・患者さんは、既往歴や過去に受けた検査結果を詳しく説明できない場合も安心して診療を受けられる。
    ・紹介時にレントゲンフィルムなどのデータを持参する必要がない医療機関受診時の状況や治療歴、検査または画像のデータなどが閲覧できるようになり、治療の経過やその効果などの説明を受けることができる。
    ・重複した薬の処方や検査を防ぐなど、医療費の負担軽減にもつながる。
    ・医療施設受診時の状況や病名情報、検査または投薬情報等が、保険薬局で閲覧できるようになり、より的確な薬剤指導などの説明を受けることができる。
    ・救急車搬送時には直近の介護情報や医療情報等が参照できるようになり、効果的・効率的な医療が受けられるようになる。
    ・災害時には直近の介護情報や医療情報等が避難所や救護施設等でも参照できるようになり効率的・効果的な医療が受けられるようになる。
  4. 地域全体への効果
    ・検査・投薬などの重複を防止し、医療費の削減が地域全体で可能となる。
    ・病病連携・病診連携、診診連携、薬薬連携、医科歯科連携、医介連携等を促進し、医療資源の有効活用が可能となる。
    ・災害でダメージを受けた地域から適切な治療環境の整った地域への搬送等が容易となる。
    ・本システムを通じて、医療機関間、介護事業所間等のコミュニケーションが密となり、より地域医療介護連携が促進される。また、病床機能報告制度に則した地域医療ビジョンの策定に貢献できる。

Posted by kochi-ict